【15】氷河期夫婦、七福神に出会う
「七福神」がいる街
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氷河期妻は社会に出てからというもの、怒っていることが多かった。
氷河期夫のほうはブラック企業で早くから「ゾンビ化」していたので、怒ることはそんなになかったが、ゾンビとして人間らしい喜怒哀楽を失っていた。
夫婦喧嘩はあまりしなかったが、かといって
「幸福か?」
と問われれば
「ケンカしているよりはマシ」
という気分だった。
しかし信じられないような運気好転が続くうち、氷河期妻が怒ることはほとんどなくなり、いつしか「七福神」のイメージを脳裏に描くようになっていた。
そして、そのうちの「おじさん」の神様のひとりは、あの追突事故の加害者〇〇〇の顔なのだった。
そんな氷河期夫婦は、導かれるようにして引っ越してきた街には「七福神」がいた。
何かの「比喩」ではない。
本物の「七福神」だ。
「七福神」のご利益は?
東京23区内には、「七福神巡り」ができる街が十数以上もある。
氷河期夫婦の引越し先はそのうちのひとつだった。
ちょうど氷河期夫の転職先が決まった頃から、ひんぱんに「七福神巡り」をするようになった。
そんなある日近所で「真っ白な子猫」に出会った。
「七福神」のひとりの神様が祀られているある神社で生まれた猫らしかった。
だから近所には、
「あの猫は〇〇神社の神様の化身なのだ」
と冗談とも本気ともつかない口調で言いまわっている老人もいた。
その地域には猫がたくさんいた。
野良猫ではあったが、動物ボランティアの活動が盛んなのもあって、捕獲、去勢、リリースをするTNRが行われた「地域猫」になっていた。
氷河期夫婦は神様の化身かもしれないこの「真っ白な子猫」と関わりを持つようになった。
運気好転の追い風はいっそう強まっていった。
氷河期夫の年収は、内定時の想定年収よりもずっと多くなっていった。
同時に、ゾンビ化していた前の職場では考えられなかったように意欲的に仕事に取組むようになった。
そして次々と責任あるプロジェクトに携わるようになった。
転職先の会社は、引っ越してきた街からは電車1本で行くことができた。
売却した以前の住まいからだと不便すぎて通うのが大変な場所だ。
こうして不思議なほど歯車がかみ合うようになったのは「七福神」のご利益以外には考えられなかった。
【第15話まとめ】
氷河期夫婦が導かれるように引っ越してきた街には「七福神」が鎮座していた。そのご利益によって氷河期夫婦はいっそう運気好転していった。